ケーキのお店とか、いかにも隠れ家風のバーとか。
恋人と新規開拓するのは楽しい。あれこれ雑誌で調べたり、ネットで調べたりしてチョイスし、迷子みたいに二人で歩いて街の片隅にある店に行き着く。イスやテーブルのセンスや装飾を図り、メニューの作りを楽しみ、接客態度も含めて味や雰囲気やを贅沢に見聞する。
それらがよければその日以降、デートコースのローティションに組み込まれる。雰囲気によるんだが、とっておきになることもあれば、簡単に使える便利で手軽な一軒になることもある。
この日はそういうデートになる予定だった。場所は本町から四ツ橋周辺にかけて。靭公園を中心とした辺り。
僕もこれまであまり行ったことのないところで、結構、楽しみにしていたんだが。
ランチはFLOU CAFEでとった。ネットで調べて見つけたお店。元々倉庫だったというだけあって、店内は奥行きがある。天井が高い吹き抜け風を期待していたがそれは裏切られた。二階も普通のフロアになってるのかな? イスの感じはややレトロな昭和喫茶風。当時、バーといえばこんな感じだったのかも。窓や天井を走る排水溝なんかは倉庫のときのままなのだろう。知らなければ、普通の喫茶店として使ってしまいそうなお店。
そこで彼女が前日、果たして来た大仕事の話を聞きながら食事を。
お店の兄さんに、
「二階もあるんですか?」
と訊ねると、ギャラリーになってます、とのこと。もちろん上がる。
ギャラリーとして適当な広さの二階スペースでは、元々はストリートミュージシャンなのかな、若い男の子が写真や絵を展示していた。キレイで達者だが、既視感に満ちた感じ。
受付をしていたお姉さんに、彼の曲も聴かせてもらった。それもやはり同じ。上手いのかも知れないが、作りました、という自己満足が勝っている。もちろん、そこでそんな指摘をお姉さん相手にしたりはしない。若いこれからのアーティストに文句をつけるのは何だか嫉妬に塗れている風でもあり、癪なのだ。印象には残らない。惹かれるところは残念だけどなかった。
店を出たところで雨が降り出し、なにやらひどくなりそうな気配。どうする? といいながらも泣く泣く、本町経由で心斎橋の方へ歩いて戻ることにする。おかげでデートの計画は白紙。
「この間、先にひとりでコートみちゃった」
と歩きながら、彼女に告白して謝った。
「どこの?」
「ハムネット」
「いい? 見たいなー」
ミナミにも店舗があるので見ようか、ということにして心斎橋筋をずっと南下。途中で、アニエスbに入る。シャツをあれこれ見ながら、イケメンの店員のお兄さんとしばし話す。
めちゃめちゃ派手な、それこそ笑ってしまうようなデザインのシャツがあって、それをどう着こなすか、という話から始まり、シャツの裾をどうズボンに入れれば全体的な折り合いがついて見えるのか、とか、僕がそのとき着ていたシャツ(黒のキャサリン・ハムネットだった)の襟の立て方やなんか。
「いいシャツですね」
リップサービスもあるんだろうけど、彼はそういって褒めてくれた。
「やっぱり見てしまいますよ」
お客さんの服装を、という。そやろな。
服についてとてもよく知っている、という印象。普段もきっとこの人は服を大切に着ているんだろうな、仕事のときばかりでもなく日常もずいぶんお洒落なんだろうな、と思わせる。
アニエスを出て、なんばの○|○|に。
フロアに並ぶあれこれのブランドのお店の前を通る。たまに鼻がピクリと動く。ん(あれ、いいかも)、と思う。ダイレクトに表情に出ちゃうのか、横にいる彼女が「あれ?」と訊いてくる。訊いてくるタイミングがほぼ100パーセント狂いなく僕の好みを見透かしているので笑ってしまう。
うんうん、あれ、といいながら入っていって見ていると、店員さんが近づいてきて「着てみてくださいね」という。袖を通す。
お店によって店員のお兄さんお姉さんの接客技量やトークのスキルにずいぶん差があるなー、と思う。
そんなんプレスに書いてあることだけやろ、といったトークしか聞かせてくれないとガッカリする。スペックについてだけではなく、たとえば、僕が着るとして、というような話が聞きたい。もしくは、服を扱うプロとしての小技の利いたコツとかエピソードなんかを聞かせて欲しい。
数日前にハムネットで着て、いいなと思ったのと同じコートを見つける。これこれ、といいながら再び袖を通す。恋人も満更どころではない風。袖の折り返し部分を見て「キレイやなー」とやっぱりいった(笑)
いいやろ、とまるで自分のもののようにいう僕。
入荷待ちの他の商品について調べに店員のお兄さんが奥へ引っ込んだ間、なんとはなしに感じる視線があったので、彼女に「着る?」と訊く。「うんうん」と尻尾を振る彼女。
ハムネットの服ってシルエットが細くシャープなんで、それに彼女は背もそれなりに高くスタイルもとてもいいので、メンズのコートでもそれなりにちゃんと着こなせる。なかなか決まっている。
「なかに厚めのセーターとか着たら大丈夫よね」
とすっかりお気に入りの様子。これ、買ったら多分、共用どころか彼女に着倒されてしまうぞ、ヤバい、と思う。ま、それもいいか。彼女所有でどうやらかなりお気に入りらしいジャケットがあるんだが、それを僕は狙っていた。一度着させてもらったら悪くなかったのだ。あれ、アニエスじゃなかったっけ? ワードロープが共有の生活ってなかなかよさそうだ、と僕もひそかにニンマリする。
その日は買わずに、さらに次に入荷されてくるという少し裾の長いコートを見てから決めることにして、流す。
(この項、次の記事につづく)
恋人と新規開拓するのは楽しい。あれこれ雑誌で調べたり、ネットで調べたりしてチョイスし、迷子みたいに二人で歩いて街の片隅にある店に行き着く。イスやテーブルのセンスや装飾を図り、メニューの作りを楽しみ、接客態度も含めて味や雰囲気やを贅沢に見聞する。
それらがよければその日以降、デートコースのローティションに組み込まれる。雰囲気によるんだが、とっておきになることもあれば、簡単に使える便利で手軽な一軒になることもある。
この日はそういうデートになる予定だった。場所は本町から四ツ橋周辺にかけて。靭公園を中心とした辺り。
僕もこれまであまり行ったことのないところで、結構、楽しみにしていたんだが。
ランチはFLOU CAFEでとった。ネットで調べて見つけたお店。元々倉庫だったというだけあって、店内は奥行きがある。天井が高い吹き抜け風を期待していたがそれは裏切られた。二階も普通のフロアになってるのかな? イスの感じはややレトロな昭和喫茶風。当時、バーといえばこんな感じだったのかも。窓や天井を走る排水溝なんかは倉庫のときのままなのだろう。知らなければ、普通の喫茶店として使ってしまいそうなお店。
そこで彼女が前日、果たして来た大仕事の話を聞きながら食事を。
お店の兄さんに、
「二階もあるんですか?」
と訊ねると、ギャラリーになってます、とのこと。もちろん上がる。
ギャラリーとして適当な広さの二階スペースでは、元々はストリートミュージシャンなのかな、若い男の子が写真や絵を展示していた。キレイで達者だが、既視感に満ちた感じ。
受付をしていたお姉さんに、彼の曲も聴かせてもらった。それもやはり同じ。上手いのかも知れないが、作りました、という自己満足が勝っている。もちろん、そこでそんな指摘をお姉さん相手にしたりはしない。若いこれからのアーティストに文句をつけるのは何だか嫉妬に塗れている風でもあり、癪なのだ。印象には残らない。惹かれるところは残念だけどなかった。
店を出たところで雨が降り出し、なにやらひどくなりそうな気配。どうする? といいながらも泣く泣く、本町経由で心斎橋の方へ歩いて戻ることにする。おかげでデートの計画は白紙。
「この間、先にひとりでコートみちゃった」
と歩きながら、彼女に告白して謝った。
「どこの?」
「ハムネット」
「いい? 見たいなー」
ミナミにも店舗があるので見ようか、ということにして心斎橋筋をずっと南下。途中で、アニエスbに入る。シャツをあれこれ見ながら、イケメンの店員のお兄さんとしばし話す。
めちゃめちゃ派手な、それこそ笑ってしまうようなデザインのシャツがあって、それをどう着こなすか、という話から始まり、シャツの裾をどうズボンに入れれば全体的な折り合いがついて見えるのか、とか、僕がそのとき着ていたシャツ(黒のキャサリン・ハムネットだった)の襟の立て方やなんか。
「いいシャツですね」
リップサービスもあるんだろうけど、彼はそういって褒めてくれた。
「やっぱり見てしまいますよ」
お客さんの服装を、という。そやろな。
服についてとてもよく知っている、という印象。普段もきっとこの人は服を大切に着ているんだろうな、仕事のときばかりでもなく日常もずいぶんお洒落なんだろうな、と思わせる。
アニエスを出て、なんばの○|○|に。
フロアに並ぶあれこれのブランドのお店の前を通る。たまに鼻がピクリと動く。ん(あれ、いいかも)、と思う。ダイレクトに表情に出ちゃうのか、横にいる彼女が「あれ?」と訊いてくる。訊いてくるタイミングがほぼ100パーセント狂いなく僕の好みを見透かしているので笑ってしまう。
うんうん、あれ、といいながら入っていって見ていると、店員さんが近づいてきて「着てみてくださいね」という。袖を通す。
お店によって店員のお兄さんお姉さんの接客技量やトークのスキルにずいぶん差があるなー、と思う。
そんなんプレスに書いてあることだけやろ、といったトークしか聞かせてくれないとガッカリする。スペックについてだけではなく、たとえば、僕が着るとして、というような話が聞きたい。もしくは、服を扱うプロとしての小技の利いたコツとかエピソードなんかを聞かせて欲しい。
数日前にハムネットで着て、いいなと思ったのと同じコートを見つける。これこれ、といいながら再び袖を通す。恋人も満更どころではない風。袖の折り返し部分を見て「キレイやなー」とやっぱりいった(笑)
いいやろ、とまるで自分のもののようにいう僕。
入荷待ちの他の商品について調べに店員のお兄さんが奥へ引っ込んだ間、なんとはなしに感じる視線があったので、彼女に「着る?」と訊く。「うんうん」と尻尾を振る彼女。
ハムネットの服ってシルエットが細くシャープなんで、それに彼女は背もそれなりに高くスタイルもとてもいいので、メンズのコートでもそれなりにちゃんと着こなせる。なかなか決まっている。
「なかに厚めのセーターとか着たら大丈夫よね」
とすっかりお気に入りの様子。これ、買ったら多分、共用どころか彼女に着倒されてしまうぞ、ヤバい、と思う。ま、それもいいか。彼女所有でどうやらかなりお気に入りらしいジャケットがあるんだが、それを僕は狙っていた。一度着させてもらったら悪くなかったのだ。あれ、アニエスじゃなかったっけ? ワードロープが共有の生活ってなかなかよさそうだ、と僕もひそかにニンマリする。
その日は買わずに、さらに次に入荷されてくるという少し裾の長いコートを見てから決めることにして、流す。
(この項、次の記事につづく)
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